礼について

 剣道は『礼に始まり、礼に終わる』と言われます。それだけ礼節を尊ぶという事なのですが、実際にも礼をする場面が沢山あります。

 先ず、道場に入る時。

 剣道では、稽古や試合を行なう道場は、神聖な場所と考えます。それは、道場があるから稽古が出来るという感謝の気持ちから生まれるものです。ですから、最初に道場に入る時は「お願いします」と言って、約30度の深い立礼をします。

 最近はキャリー型の防具バッグもありますが、道場内で引きずるのは、是非避けていただきたいものです。

 少し話はそれますが、道場に入る前に脱いだ靴を揃えるのも、厳しく指導されます。それも礼儀作法の一環だからです。

 次に、稽古を始める時、先生を前にして並んで座り、黙想と礼をします。黙想の説明は別の機会に譲りますが、稽古を始める時は、基本的には、①正面に礼、②先生方に礼、③お互いに礼、の順番です。

 正面とは、神棚がある時は神棚の方向、ない時は上座の方向になります。

 この時の礼は、座って行う礼なので自分の前に両手で三角形を作り、そこに鼻を入れるように礼をします。

 稽古中は、相手が代わるたびに「お願いします」「ありがとうございました」と言ってお互いに礼をします。

 この時の礼は、浅い礼で、角度は15度くらいです。なぜなら、相手と対峙しているので、油断を見せて相手に打たれないようにするためです。体だけ曲げて顔は正面を向いていては失礼ですが、頭を下げていても視線は相手から外しません。

 試合の時の礼も、稽古中の礼と同じですが、声は出しません。普段とは違う真剣勝負だからです。

 稽古を終える時は、再び先生を前にして整列して着座し、①先生方に礼、②正面に礼、③お互いに礼の順番です。始めと終わりで①と②の順番が客ですが、何故かは知りません。どなたか教えて下さい(笑)

 その後、稽古をつけて下さった先生のところへ行き、正座をしてお礼を言います。そして個別のアドバイスをいただきます。もちろん、アドバイスをいただいた後も礼をしてお礼を言います。

 同様に、稽古をしたお相手ともお互いに礼をしてお礼を言い合います。

 最後に道場を後にする時は「ありがとうございました」と言って立礼をします。

 稽古の途中でも、出入りする時は必ず道場の方を向いて立礼をします。もし、剣道の大会を見に行く機会があったら、会場から出入りする剣士にも目を向けてみて下さい。必ず会場に向かって礼をしているはずです。

 ちなみに、道場に入る時は左足から、出る時は右足から出入ります。これは、道場に対して下座が左側になるからです。

 一方試合など相手と対峙する時は台頭なので、上座に当たる右足から同等と進んでゆきます。試合終了時は左足から下がります。

 最近はここまで厳しく言われないかもしれませんが、今回ブログを書くにあたり、小学生の頃そのように教えられたのを思い出しまし、私も良い勉強になりました。

 着座は、左座右起という言葉があるように、左足から座り、右足から立ちます。これにも上座下座の考えがあると思われます。

 以上が基本的な礼の仕方になりますが、道場によって若干異なることもあると思われます。例えば、私が通っている道場の1つは、夜間の稽古の時は「こんばんは」と言って道場に入ります。郷に入らば郷に従え、と言うように、そこは柔軟に対応してください。これから述べますが、大切なのは表面的な形だけでなく、その奥にある精神性なのです。

 剣道は場面々々で礼儀が決まっていますが、大事なのは形だけ行なっていればよいわけではない、という事です。これらは全て、相手に対する感謝の気持ちの表れです。稽古が出来る場所に対する感謝、教えて下さる先生への感謝、稽古をさせてくれるお相手への感謝です。

 剣道では、この精神性を大切にします。

 ですから、目上の人を横切る時は基本的に後ろを通ります。後ろが通れず仕方なく前を通る時は「失礼します」と言って頭を下げて通ります。これも目上の人を敬う心があります。

また、剣道ではガッツポーズは禁止です。自分が勝ってうれしい反面、お相手は悔しい思いをしているはずです。そんなお相手への心遣いが、剣道の精神なのです。

 今回は、礼から剣道の精神までご紹介させていただきました。

 競技としての剣道を行なうのは一時かも知れませんが、そこで身につけた礼儀は、一生の宝になります。礼をはじめとして、靴を揃える事や挨拶、目上の方への対応など、日常の何気ない所作に表れたら、非常に美しく映えるでしょうし、その根底にある感謝の気持ちも、ずっと持ち続けられると思います。

 礼儀が身につく、剣知会の稽古会の日程はこちら。


剣知会

剣道には、交剣知愛(こうけんちあい)という言葉があります。これは剣道を通じて互いの理解を深め、人間的な向上をはかるという意味です。そして、あの人ともう一度稽古や試合をしてみたいと思うこと、またそう思われる人間になるよう稽古に励みなさいという意味です。  剣知会は、障がいのあるなしにかかわらず、一緒に稽古に励むことで理解、尊重し合いながら、互いの成長を喜び合うことを目的とした、剣道の団体です。